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極私的視点(再)

思いついた時に、思いつきの文章とそれっぽい写真を大公開です。

「悟浄出立」読了

万城目学直木賞候補作

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感想は「面白かった」星3.5です。(アマゾンっぽく星5が満点)

中国の歴史上または伝説として記録され様々な書物に登場する人物(一部妖怪あり)に焦点をあてつつ、彼らをその人物の近くにいた(おおよそ小説のために新たに作られた)人が語るという構成。

お話の本筋自体は有名な故事であり、それを知ったうえで読めば余計楽しめたと思うんだが、オレは中国方面の知識に疎く、あとから調べて「元はそういう話だったんだ」と理解したのはザンネンだった。

いずれも作者の空想物語であるので、自由な発想で書かれているという意味ではSF的であり、酒見健一がファンタジーノベル大賞を受賞した「後宮小説」と同じテイスト(アレも中国の話しだしな)ですね。というよりも京極夏彦が日本の有名な怪談話を組み立てなおした一連のシリーズ「嗤う伊右衛門」「覗き小平次」「数えずの井戸」か。

いずれにしても原典をきちんと踏まえつつ、そこから話を膨らませながらも最後は歴史として語られつづけている 結末に収まる構成はうまい。有名な史実の裏には本当にそんなことがあったのかもしれないと思えてしまいます。

いずれも心躍るような冒険譚ではなく、語り部が自分が見た光景や自身の気持ちを淡々と述べることで、対象となる登場人物らの隠された心情をも描き出し自身の心情も照らし出すという内容で、これまでの万城目作品と比べれば、そのアホアホ加減が少ないのがザンネンといえばザンネンなんだが、これまでも描いてきたファンタジーっぽい世界観をまとって歴史を語るやり方に、万城目学という作家が紡ぎだす文章に似合っているのでは感じた。

中島敦の「悟浄歎異」

この本を書くきっかけになったのではないかと指摘される中島敦の「悟浄歎異」も合わあせて読んだが、確かに似ている。構成は「悟浄出立」に含まれる短編全体に通じるものがある。

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で、中島敦といえば高校時代だかの現国の時間に「この人は文章がうまい」と教わった記憶があるんだが、確かに抵抗なくさらさらと読める文章はうまいと思う。そんな文章とくらべて見ても「悟浄出立」の文章は負けていないと思うぞ。いろいろヘンな物語を書き続けてきた作家だから気が付かなかったのか、万城目学という人は実は文章がうまい(非常に読みやすい)と思うね。

収録された短編はどれも好きなんだが、あえて選ぶとすれば「悟浄出立」かな。

妖怪に囚われた三人を助けるため火竜にうちまたがり、閉じ込められた牢の壁をぶち破り炎の熱風とともに踊り込んでくるシーンを読んでて吹き付ける熱風を感じてしまったその孫悟空のかっこよさったらないぜ。

作品中、唯一といっていいくらいのアクションシーンもかっこ良いんだが、悟浄がぐうたらにしか見えない八戒の気持ちを知り、それまでの自分のなかで鬱屈した感情が少しだけでも開放されるという明るい未来を予見させるラストがもっと好きだな。