「面白きことは良きことなり!」
「有頂天家族」読了
二作目の感想を先に書いたりして順番は逆になったが、実は先に読んでたものの内容はすっかり忘れてしまっていた「有頂天家族」を読み終えた。
面白かった。おしまい。
ではなく、感想を少し。
家族の物語である
前の感想にも書いたし文庫版の表紙にも描かれているとおり、物語の主人公は狸である。こいつらがうごうごと動きまわる様が面白おかしく描かれている。
初めて読んだ今から五年くらい前は「奇想天外で面白い小説」という印象が残っているだけであったが、今改めて読んでみるとかなり印象が違う。
京都狸の惣領 偽右衛門下鴨総一朗の息子たちをめぐる家族の物語なのである。その点は二作目の感想にも繋がり変わりないテーマであるな。
物語は阿呆で有名な主人公下鴨矢三郎を狂言回しとして展開し、矢三郎に絡む登場人物らが勝手で阿呆な暴れっぷりを見せるものの、実はその裏でそれぞれが悩みを抱えていたり人に言えない秘密があったりして、登場人物は実は殆どが狸であるにもかかわらず、読んでる人間の胸のスキマを突っついてくるので読んでてちょっとしんみりしたりしてしまう。ただし、やってる事自体は阿呆の血のしからしむところによる荒唐無稽な馬鹿騒ぎであるので、心から楽しめることには間違いない。
狸以外にも赤玉先生をはじめとする天狗たち、半天狗で自由奔放な絶世の美女 弁天などそれぞれがとても魅力的で、会ってみたいようなめんどくさいような一筋縄では行かぬそれぞれが持つキャラクタの組み合わせを読むのも楽しい。
濃い関係性が羨ましかったり
多くが顔見知りである京都の狸界という狭い関係性の中で繰り広げられる物語であり、そういった閉鎖的な部分やめんどくさいしきたりや厳しい上下関係などが鬱陶しくもあるが、そういった中でうごうごと動きまわり右往左往する狸たちの姿を見ていると、あまり密な関係性を求めない性分の自分も彼ら彼女らがなんだか羨ましくなったりした。
実際にそのような環境に放り込まれたりすれば、矢二郎のように蛙に化けて井戸のそこに潜んでしまうかもしれないが、それはそれで面白いかもしれないなと思ってしまう。
そんな読んでいて楽しくなる阿呆な狸の物語でありました。
それにしても夷川早雲は悪いやっちゃな。
flic.kr 写真は物語の最後に下鴨家が打ち揃って初詣に出かけた八坂神社本殿。おそらくここらあたりで弁天と並んで矢三郎が賽銭を投げたんだろうな。
タイトルは、偽右衛門下鴨総一朗が狸鍋にされる前、最後の言葉です。