極私的視点(再)

思いついた時に、思いつきの文章とそれっぽい写真を大公開です。

「ぼぎわんが、来る」読了

久々に面白いホラー小説を読んだ。

 

ぼぎわんが、来る

ぼぎわんが、来る

 

 


むかし「リング」や「パラサイト・イヴ」を読んだ時のことを思い出した。
この作者は文章はなかなかうまいと思う。読みやすいし。
アニメなどの映像化がなされれば、ヒットすんじゃないかな?
主要登場人物の姉妹のヴィジュアルもアニメ向きな気もする。

他の人のレビューなどを読むと「ラストがラノベで萎える」などあって、たしかにそうかもしれん。霊能力をもつ姉妹の造形はアニメ的な何かを感じさせる。だからこの小説をアニメにすれば受けるかもしれんと思ったわけですね。

さて内容は

小説は「ぼぎわん」と呼ばれる不可思議な怪物の出現と、それによって引き起こされる恐ろしい出来事が複数の視点から描かれていて興味深い。その構成は単純な「怪物はコワヒ」というホラーではなく「やっぱ一番怖いのは人間かもね」という心理的な怖さを醸し出していると思われマル。
加えて「ぼぎわん」が住む地方に住んでいた人々やそれを呼び出してしまった人たちが抱える悲しみなどが描かれていて、単に怪物が暴れまわるだけの小説ではないのがよいと思いましたね。

ただ、そういう様々な因縁が「ぼぎわん」退治に向けて収斂されていくわけじゃなく、あくまでも「ぼぎわん」の由来やなぜ登場人物らの前にこいつが出てきたのかという読者への説明材料、そして退治前段のお膳立てのための単なる道具でしかないのが残念なところ。それに加えて第一章から登場し第二章でその本性を露わにした民俗学者の心理や行動がそれほど掘り下げられてなく、「こいつはクライマックスで何かキーになるのでは」という期待は見事裏切られたのも悲しい。彼が語る「ぼぎわん」の語源に関する推測も、「なるほど!」と膝を打つ上手さ。「そうきたか、でもあるかもね」と思わざるをえないですよ。そんな民俗学者の彼の使われ方は、物語の中に散りばめられた様々なイベントや道具立てと同じく非常にもったいないと思うのですね。誠に惜しい。それら積み重ねられた様々なモノが「ぼぎわん」退治のキーワードになり、「それはそういう意味だったのかー」とか「そういう使われ方だったんだー」とか「それがここで役にたったかー」だったりしたら、ラストはもっと燃えたかもと思う。確かに指輪や組紐がちょっとだけ役にたったりしてたけど、印象はとても薄い。

で、おもしろいん?

この小説についてAmazonレビューを始めいろんな感想を読んでみたら、概ね好評。
「王道のホラー小説」という評価も多い。確かにそう思うわけで、その意味では安心して読めるのですね。
「あれだけ人が死んだり、家が壊れたりしているのに、なぜ警察が動かないのか」(登場人物の感想で、関連各所への事情説明に苦労したなどと、サラリと書いてはあるが)などという坂口安吾先生に言わせれば「瑣末なこと」ながらちょっと気になる部分については、強力な霊能力を持つ登場人物が警察上部と親密な関係があるので、そんなことはもみ消せることになっているらしい事が説明されてる。
事件にまとわりつく、そういった一般的な事象を簡単に整理するためのうまい方法だと思いましたね、これは。まあ、浅見光彦のお兄さんが警察の偉い人だから、旅先で事件に首を突っ込めるのと同じだな。

実は読み始める前に「小説は三章に分かれており、それぞれが別の登場人物の一人称で語られる」という体裁を知ってしまったので、個人的には「見た目はホラーだが、実は人間の心理の闇的なバックグランドがあって、その結果の真相は云々」という読者をミスリードするような内容かと思って読んでいた。第一章では出だしから悪い予感がぷんぷんで、そのラストはかなり派手なホラーだったこともあったし、登場人物のちょっと奇妙な台詞に傍点が付けられていたりしたから、「これはいよいよめくらまし」などと思ったりして読み進めてた。

同じ出来事を別の人物の視点と心理から見た時にそれらは全く別の様相を呈しはじめてくるしで、やはり最後には「怪物のしわざだとおもわれていたものが、実は・・・」という展開になるんじゃないかと考えたりしてたんだが、結果予想は外れた。

そういう意味では章毎に語り部を変えたという手法はそれほどの効果を上げなかったんじゃないかなと残念に思ったりする。

そんなわけで今のままでも面白いことは面白いんだが、オレの予想はともかくとしても、「実はぼぎわんの正体とは」という真相解明があった方が面白いんじゃないかと考えたりする。特に第3章はミステリーっぽい謎解きな展開があるしね。

で、ケッキョクどうよ?

「ぼぎわんが、来る」はラストで「ぼぎわん」は退治されるんだが、結末はどうにもすっきりしないのですね。まだまだ物語は続く的な雰囲気な終わり方だし。

そんなわけで霊能者姉妹をメインキャラクタにして、続編が書かれる雰囲気満載ですね。姉妹はこれまでも今回のような様々な事象を解決してきたことは、セリフの中で示唆されているし。作者自身はそんなことは意識していないかもしれないけど、読んでる方はそう感じたし出版元もそれを狙ってるかも。KADOKAWAだし。

ぼくがかんがえたさいきょうのらすと

モヤモヤした本作とは違いオレが勝手に考えたラストは、三章の主人公である男がひとりで「ぼぎわん」に立ち向かい、自身の機転と霊能力者妹の助け、それに加えて神や仏の力的なもの(あるいは強力な霊能力を持つ姉の力を借りて)でギリギリ退治するという展開。ハリウッドのB級ホラーでよく出てきそうな展開だが、読者の予想を裏切らずきちんと物語を収束させるならば、こういったラストでも良かったんじゃないか。そのほうが読者の気持ちが「ぼぎわん」と戦う一人の男に集中して物語にのめり込めた気がするし、「怪物完全退治」というハッピーエンドで終われたんじゃないかな。

まっ、そんなわけですが

久々寸暇を惜しんで読んだ小説ですよ。面白いですよ。

おまけ

で、ラストの「ぼぎわん」とのバトルシーンで、オレの頭に浮かんでいた「ぼぎわん」のイメージはこれだ。

 

クチビルゲ


ルロルロルロー